2005年11月24日
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リモコン幻想

Written By: 遠野秋彦連絡先

 昔々

 リモコンは夢だった

 テレビのチャンネルは回転式

 力を入れて、がしゃがしゃまわした

 接点は脆弱で

 すぐにおかしくなった

 それなのにチャンネル争いは激化し

 チャンネルは丁寧にまわしなさい

 パパやママはそうやって子供を叱った

 でも今は

 リモコンがある

 ボタンを押せば

 チャンネルは変わる

 脆弱な接点は

 もうない

 軽く押すだけ

 チャンネルは変わる

 変わる変わる

 変わる変わる

 チャンネルは変わる

 好きなだけ押してごらん

 それは素敵なザッピング

 多チャンネルのこの時代

 鬼が出るか蛇が出るか

 おっとそこから先は

 有料チャンネル立ち入り禁止

 ボタンを押しても見られない

 金を払わにゃ見られない

 僕は考える

 3秒ぐらい考える

 そして考えるのはもうやめた

 リモコンを押せば

 すぐに別のチャンネル

 どうして悩む必要が?

 リモコンを押そう

 ボタンを押そう

 たったそれだけで

 別の夢

 別の幻想

 別の可能性

 別の竜頭蛇尾

 別の昼メロ視聴

 別のプロ野球延長

 別のテレビリモコン

 ああ、つまらない

 結局、同じことの繰り返し

 慣れてしまえばつまらない

 僕はリモコンを投げ捨てる

 ポイッと軽く投げ捨てる

 でも5分後に

 僕はリモコンを拾って

 またボタンを押す

 そして気付く

 ありゃりゃ

 全てのチャンネルをもう一巡

 最初のチャンネルに戻ってしまったよ

 そして最初から繰り返す

 僕は無限に繰り返す

 それが僕らに与えられた

 リモコン幻想

 それが僕らに与えられた

 ささやかな救い

 あるいは

 悪辣なる罠

(遠野秋彦・作 ©2005 TOHNO, Akihiko)

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